妻の父が住み込みで働いていた主人の家族に悲報が入った。
「Cちゃんが、Cちゃんが 溺れた・・・」
波穏やかな遠浅の海水浴場。
海岸近くの中学校の女子中学生たちが学校行事の水泳訓練をしていた。
楽しい海水浴のはずが、足も立つはずの浅瀬で、何人もの生徒が一斉に溺れ始めた。
教師や他の海水浴客が慌てて救助し応急手当も施したが、36人もの女生徒の命が失われた。
人々の記憶からは失われつつある橋北中学校水難事故だ。
あいにくの曇り空、家族4人を乗せた車は国道23号線を津市の海に向かって走る。
賑やかな車の中で、妻は子ども達にポツリポツリと語っている。
「・・・・・・あの海の事故で亡くなったCちゃんはおじいちゃんとても可愛がっていたんだって。それから5年後私は生まれ、おじいちゃんはCちゃんのお父さんにお願いしたのよ Cちゃんの名前を娘に付けたいって。」
「生まれ変わりってこと・・・・?」
「そういえばこんなことがあったんだって、私がまだ言葉を覚え始めたころあの海岸を訪れ砂浜の上で遊ぶ私は急に ココッ、ココッ、って大声で叫び目の前の海を指さしたんだって」
賑やかだった車中も神妙な空気に包まれ時折動くワイパーの音が心落ち着かせるリズムを刻んでいる。
中河原海岸に着いた。
足元の悪い石段を下り砂浜から妻は海にブーケを投げ入れた。
ブーケは雨上がりの虹のような放物線を描いた。

雨に煙る海は穏やかだった。
妻の後姿を子ども達と静かにじっと見ていた。

「ありがとう、お腹すいたね。おいしいもの食べに行こか。」
「それから美術館にでも行こうか・・・」
いつもの家族の休日に戻った。
海は静かに私たちを見送ってくれた。
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